地域づくりブログ

まちや集落になじもうとモガクおっさんが地域にナリワイを生もうと格闘している日々のキロク

毎日走っています。1人で参加できる日帰り観光バス―路線バスを活かした九州産交の「日帰りバス旅」の取り組み―

 「Qサポネット」というグループがある。交通をきっかけに持続可能な地域づくりを考えようと、交通関係の学者や自治体だけでなく、事業者も参加している産学官の組織だ。https://www.facebook.com/qsuppo

 2013年1月に行われた勉強会に参加させていただいた。パネルディスカッションで報告された九州産交バスの「日帰りバス旅」の取り組みは、既存の路線バスを活かした着地型観光事業で、2012年上期だけで3,000人もの利用があるという非常に興味深い内容だった。

◯個人客のバスツアー

 「日帰りバス旅」を一言でいうと、高速バスや路線バスの公共交通機関と温泉や飲食店などの施設利用クーポンをセットにし、旅行者本人が目的地間の乗降を行うプランである。既存の路線バスを使うため、添乗員やバスガイドが同行せず、前日の夕方までの予約で、1人から参加できる仕組みになっている。個人客を対象としたバスツアーだ。
 実に合理的な仕組みで、60コースの中から自分の行きたい場所を選べば、交通手段を自分で探す煩わしさもなく、日帰り旅行が楽しめるわけだ。旅行の日程を自分で管理する必要があるが、それは個人旅行も同じこと。むしろ、パックツアーなので、料金が割安(3,000円、5,900円の均一料金)になっているのがうれしい。
 私も地元の糸島で、着地型観光を実施したいと思って旅行業務取扱管理者の資格をとったのだが、糸島は福岡市の日帰り圏なので、どうしても旅行単価が安く、個人旅行を相手にしようと思うと、既存の観光バスツアーの発想ではとても採算が合わない。自分で手配業務から運転手、ガイド、添乗員を兼務しても厳しいのではと思うくらいだった。
 自分で抱え込まずに、路線バスや飲食店など、既存のあるものを活かす発想は、地域づくりの原点みたいなものだが、私自身が既存の観光バスの枠組にとらわれていて、柔軟な発想ができなかった。「日帰りバス旅」は着地型観光のモデルとして他の地域でも展開できるのではないかと非常に気になったので、後日、九州産交バスの営業所のある熊本に話を伺いに行った。

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日帰りバス旅のパンフレット

◯2012年で観光流通のハブを目指す熊本県

 「日帰りバス旅」が生まれたのは、熊本県観光課から九州新幹線の開業にあわせて一緒にやりましょうと話を受けたのがきっかけだそうだ。熊本県は、九州観光の拠点を目指しており、九州の中央に位置する強みを活かして、一泊目を熊本に泊まってもらい、そこから九州各地を旅行してもらうという“観光流通のハブ化”ともいえる構想を持っていた。また、九州産交としても新幹線の開業にあわせた観光事業の開発がテーマとなっていた。
 事業企画を組み立てていた当初は、貸切バスの観光商品を作ったりして、旅行会社に売り込むなどの試行錯誤があった。そのうち、阿蘇地域だけでも1日22便も運行している路線バスを活用して、旅行商品化して流通できないだろうかという話が出てきた。路線バスは基本的に45人乗りで、15人乗れば採算が取れる設計になっている。残りの30席は基本的に空いており、通勤通学と観光客の利用時間帯もほとんど重ならないことから、有効に活用できないだろうかという発想だった。しかし、一方で内部の抵抗もあった。
 「路線バスは許認可事業で、あまり儲けを出せない構造なんです。昭和40年代からビジネスモデルが変わっていないため、手数料を設定して儲ける旅行業のビジネスモデルがなかなか馴染めなかったようです」とプロジェクト担当の本山さんはいわれた。しかし、最後は、旅行会社のHIS出身の社長の決断で動き出した。

◯1人から対応、3次交通も設計

 日帰りバス旅の取り組みを伺う中で、すごいと感じたのが、「1人から対応」と「3次交通」の設計である。熊本空港や熊本駅までのアクセスを1次交通とすると、そこから目的地までの移動が2次交通。熊本に土地勘がない人にとっては、この2次交通がすでにネックなのだが、この2次交通だけでは、目的地の周辺までしか辿りつけないケースも出てくる。その場合に、必要になる3次交通を旅館や飲食店などの施設に送迎をお願いしている。団体ならまだしも1人から対応するとなると、施設側の負担も大きい。実際に「旅館等に1名から昼食休憩、送迎を受けて頂く交渉は、なかなか大変で、同意できずに参画されなかった施設は多数あります」とのことだった。
 しかし、熊本に出張にきたビジネスマンが、急にぽっかり空いた空き時間に1人で参加できるバスツアーは魅力的である。利用者の多くは2人での利用だが、1人での利用も無視できないほどいるそうだ。交渉は大変でも、お客のニーズに徹しているところは、見習わなければいけないと思った。

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日帰りバス旅の行程イメージ

◯旅行会社や幹事が扱い易い料金設定

 3,000円、5,900円の均一料金にしているところにもこだわりが感じられる。この点について伺うと、「価格を統一とすることで、商品により利幅は上下変動しますが、旅行会社に卸す際、いくつかのコースからお客様が自由に選んでも、その後の精算業務は単純明快で、旅行会社も楽に処理できます。また団体旅行のフリー設定の日に顧客に自由にコースを選んで頂いても精算が楽なので、団体旅行の組み込みで利用される旅行会社もあります」ということだった。
 団体や学会エクスカーションで利用する場合には、多くのお客様に多様なコースを利用してもらおうと思うと、幹事や幹事旅行会社で精算作業が多く発生する。各コースがバラバラの料金設定だと、精算作業が非常に煩雑になってしまうので、日帰りバス旅では、商品設計時から、そのことも念頭において均一価格にしたそうである。個人旅行だけでなく、団体・グループ旅行や旅行会社の商品化までを見越した商品の作り込みを行なっている。
 料金の内訳については、商品企画の中枢になるので、詳しくは教えていただけなかったが、パックツアーといえども路線バスを利用しているので、バス料金は申請している額を適用しなければいけないそうである。
 九州産交の場合、熊本県内の路線バスが利用できる1日乗車券を1,500円で申請しているので、それを適用している。旅行代金からバス料金を引き、提携先の施設への支払いと旅行会社の手数料を引いた残りが観光部門の費用となる。バス料金は変わらないので、提携先と交渉して、どれだけ安価な仕入れができるかが、重要なポイントとなっている。
 2010年10月から始まった日帰りバス旅は、2012年度上期には、約3,000人に利用されるようになった。関東方面からの利用が6割、関西や中部地方の利用が2~3割と九州外からの利用がほとんどである。土日だけでなく、平日の利用も多いそうだ。
 熊本県の目指す九州観光の拠点化という意味では、しっかりターゲットを捉えているようである。これからは韓国などの海外からの利用拡大を目指して営業を行なっている。

◯都市近郊の着地型観光のヒントになる

 「着地型観光」といえば、よくガイド付きのパッケージツアーなどを見かけるが、単価が安い上に、人件費がかかりすぎ、ほとんど利益が出ていないという話をよく聞く。上手くいっているところは、宿泊や付加価値の高い体験講座などをうまく組み合わせたプランがほとんどだった。
 日帰りバス旅は、既存の路線バスを使い、添乗員やガイドを削ることで、低料金の着地型観光を実現している稀有なケースである。このモデルであれば、宿泊を伴わないドライブ感覚の日帰り旅行として、女性客を取り込めそうである。しかし、他の地域で取り組むとなると、課題も多そうだ。交通事業者が取り組むにしても、九州産交バスほど路線バスのカバー圏域が広いのは稀なので、路線バスの沿線でどれだけ魅力的なコンテンツを準備できるかという問題がある。そもそも旅行業の資格を持たない交通事業者も多い。その場合は、外部との連携が必要になるが、コンテンツも少なく、利幅も少ない着地型観光のプランに旅行業者がどれだけ興味を持ってもらえるかという問題もある。
 ただ日帰りバス旅には、着地型観光だけでなく、路線バスの維持という公的な役割もあると考えると、行政の果たすべき役割もあると思う。行政が交通事業者と観光協会・旅行会社などの仲介をしたり、旅行商品企画のために旅館・飲食店への声かけを行うなど、補助金ではなくて行政の信頼力をベースにしたネットワークづくりはできると思う。交通や観光という垣根を超えて、地域のためになる事業を起こそうという方がいたら、手弁当でも手伝いますので、ぜひご一報ください。