地域づくりブログ

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現代版山守の仕組みを構築して里山を守りたい-糸島林研クラブが目指す取り組み-

 「林研」というのは林業研究グループの略で、今から60年くらい前に林業の技術開発や経営研修、交流などを行うために設立された全国組織で、山主などの林業の後継者が参加要件になっているところも多いそうです。

 私が糸島林研代表の吉村正春さんに初めてお会いしたのは、「林業塾」というチェーンソーの使い方や伐採方法を教える一般向けの林業体験の場だったので、林研とはNPOのような組織かとてっきり勘違いしていました。林研も現在は2つの流れが生じており、宮崎県や鹿児島県などの林業が盛んなところでは昔ながらの林研が続いており、都市部に近いところでは、Iターンを受け入れたり、一般の方々との交流に力を入れるところが増えているそうです。糸島林研は後者で、都市との交流などに力を入れています。今回は、まったく林業を知らない人も多かったことから、現在の福岡県や糸島市の森林の状況を踏まえながら、糸島林研の取り組みを紹介していただきました。

 

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お話していただいた糸島林研代表の吉村正春さん

◯主伐時期を迎える森林

 森林は「齢級」といって5年単位の尺度がある。福岡県の森林面積の状況をみると、もっとも多いのは11齢級で50年以上経過した森林が中心となっている。材木として切る「主伐」の適齢期を迎えているのだが、主伐が進んでいるわけではない。
 主伐を行うと森林法で植林が義務付けられている。しかし林業というのは、最初の5年間が下草刈りなどの手間やコストがかかるため、植林をしなくて済む間伐を続けているのが現状である。
 主伐を行わないと病気などで枯れる可能性があるため、福岡県も主伐を行うよう補助金などの支援も行っているが、なかなか増えていない。そのため、低い齢級の木がほとんどない状況になっている。

福岡県のスギ・ヒノキ人工林の齢級別面積

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資料:福岡県地域森林計画書(H27)

 

◯木を切っても出す人がいない糸島

 糸島市は福岡県内で7番目の森林面積を有している。しかし、出荷はほとんど行えておらず、わずかに出荷する材木も半分以上が間伐材という状況である。
 その原因として、これまで糸島には原木市場がなかったことがある。福岡県内にはうきは、八女、豊前にそれぞれ原木市場があるが、糸島市から遠いため、出そうにも経費が合わない。むしろ伊万里の原木市場が近いため、そちらに出荷してきた経緯がある。4年前にようやく糸島市伊万里木材市場が組んで「伊都山燦(いとさんさん)」という原木市場ができ、出荷できる状況になった。
 糸島市では荒廃林整備で間伐はかなり行なわれている。しかし、50年を過ぎた木を切っても、林道などのインフラ整備が遅れており、木の搬出技術やノウハウがないことから、木を切っても材木として出せず、切り捨てざるをえない状況である。
 伊都山燦では、1トンあたり3500円での現金買い取りに加え、2000円の商品券をつけて、出荷の動機付けを行っているが上記のような状況もあり、なかなか増えていない。

福岡県内市町村の森林面積ベストテン

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◯糸島林研の取り組み

 近年、都市型の林研では森林教育に力を入れている。糸島林研も森林ボランティアを受け入れたり、地元の子どもたちの森林体験をやっている。
 具体的には、木の駅プロジェクトとして「森の健康診断」、「林業塾」などを行っている。森の健康診断は、一般の人を人工林に連れていき、森の健全度を調べるという取り組みである。本来は愛知県矢作川流域で台風の被害が大きいので原因を調べようと始まった取り組みだが、糸島の場合は、“森林を知る”という意味合いが強い。

(森の健康診断体験記事はこちらhttp://hmasa70.hatenablog.com/entry/2016/10/07/133037
 林業塾では、防護服を着てもらい、安全面に最大限配慮しながら木の切り方、林内作業車の使い方などを指導する。切った木は伊都山燦に出荷するところまで体験してもらっている。また他の地域に出向いてチェンソー講習などを行ったりもしている。
 さらに次のステップとして、糸島市と協定を結び、市有林での間伐を行っている。これは講習や研修ではなく、実際に作業を行ってもらっている。林業塾では、チェンソーは使えるようになるが、木は様々な形状があり倒す技術は別に必要になる。その技術を積むための実践の場を提供している。
 糸島林研クラブは、森林組合の作業班として、間伐を請け負ってきたこともあり、伐採の技術を持っている。最近では伊万里木材からも仕事を請け負っている。
 伊都山燦ができたことで出荷も可能になり、兼業であれば山仕事も事業として成り立つのではないか、地元のことは地元でやりたいという思いから、「林研ワークス」という株式会社も設立している。

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糸島林研クラブの取り組み

 

◯所有の細分化が進む里山

 森林所有者の現状をみると、林家というのは山を1ha以上所有している人が調査対象だが、福岡県の場合3ha未満の戸数が6割を超えている。糸島市の場合は、50ha以上の山を持っている人は数人しかおらず、零細になっている。
 林業では森林の所有管理状況を「林班」という単位で把握しているが、糸島市の集落付近の林班をみてもらうと、1区画が0.03haなど非常に細かい。集落附近の里山といわれる部分で所有の細分化が生じている。共有林などの入会地を処分する際、個人に分けたため、非常に細かい土地になっている。現在は所有者が孫の代になっているため、権利者が非常に増えていて全員の同意が取れないため、土地をまったく動かせない状況である。このような土地で竹林の侵食やイノシシなどの獣害もひどく、非常に悩ましい問題になっている。
 まだ糸島市の場合は国土調査が実施されているため、林班と土地の所有区分がほぼ一致するが、他の地域では境界がはっきりしていないため、より問題が深い。

 

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所有が細分化された林班の様子

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上の林班図と同じ位置の航空写真。集落の裏の里山が細分化している(Googleより)

 

◯現代版山守制度を構築したい

 70代の森林の所有者で植林をした世代は伐採したいと思っている人は多い。しかし、身体が動かず実際には実施できない。後継者はすでに山がどこにあるかも知らない状況になっている。
 一方で、都市部の人で伐採をやってみたいという人はいる。そこの橋渡しをやるのが現代版山守だと思っている。山守制度というのは、都市部の大金持ちが所有する山の管理を地元の林業家に任せる制度だったようである。
 現代版山守制度では、地元で山のことがわかる人間が所有者に代わって、効率重視ではなく長期的な取り組み、地域の結びつきを意識しながら、森の管理を行えないかと思っている。森林組合も広域合併を繰り返したことで、集落の立場に立って考えることが難しくなっている。長期的な視点に立って、地域と関わる仕組みができないかと思う。
 私たちは森林のことを「山」というが、最近の人は「森」という。見方や感覚も変わっている。自然としての山、経営だけではなく山をみている。これからはそうした視点が大事になる。ただ、林業専業では難しいので、副業、兼業で収入になる取り組みを構築したい。体験型ツーリズムのような取り組みも欠かせない。そのためには、もっと多様な人材が関わってほしい。静岡県や長野県では多様な業界からの参加があり、発想が大分違ってきている。林業だけを考えると、出口が見えずに息が詰まってしまうが、農業など他産業との組み合わせを考え、安定的な収入が得られる方法を考えていきたいと思っている。

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現代版山守のイメージ図

 

◯実証研究の実施

 今回、公益財団法人「水源の森基金」から、現代版山守の制度構築に向けた実証研究について、研究助成をいただき、林研クラブと一緒に調査させてもらうことになりました。今回の話のように、里山の所有者が細分化しているなど、森林を取り巻く環境は非常に厳しいものがありますが、実際に現地で里山の管理状況や竹林の侵食状況を調べたり、1つ1つの林班について、今後の管理意向などを地元の方々に聞き取り調査を行いながら、「現代版山守」のような形で、山の管理を任せてもらえうことが可能なのか、調べていきたいと思っています。調査結果についてもまた報告したいと思います。