地域づくりブログ

地域を愛し、誇りを持って働き、暮らし、輝いている地域人(ちいきびと)の物語を紡ぎたい。

昭和30年ごろの雪国の里山の風景を取り戻したい -30年以上に及ぶ雪国植物園の取り組み-

 5月中旬に所員の視察旅行で新潟県長岡市にある雪国植物園を訪れた。「まちづくりを続ける」ことに興味があるのであれば、ぜひ話を聞いた方がいいと、村上市のきっかわの社長に紹介いただいたのだった。「大原さんの話を伺うと背筋が伸びますよ」といわれたとおり、園長の大原久治さんは熱い思いの塊のような人だった。もともとは雑貨卸会社の社長をしていたそうだ。経営者感覚をもって里山づくりや環境整備に取り組む人はめずらしい。「生態系を残しただけでは人はこない。多くの人が心癒される美しい風景をつくる」というコンセプトで、里山づくりを始め、30年以上たった今でも、まだ道半ばという。実に息の長い取り組みを紹介したい。

(以下の文章は大原さんの話) 

  

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左が園長の大原さん。右は園内をガイドをしていただいたタジマさん

 

◯市民のボランティアで12年かけてオープン

 社長をしていたころから、まちづくりに興味があったんです。地域が元気でないと会社もよくならないという思いがあった。興味を持つまちづくりのテーマは人によって様々だと思いますが、私の場合それが里山でした。

 僕らの若かったころ、昭和30年代前半の懐かしい風景はどこにいったのか、1箇所ぐらい取り戻そうと市長を口説き落としたんです。民間ではいつか潰れてなくなるかもしれないので、環境を守り続けるためにも公のものとした方がいいと思って、35ha(11万坪)の土地を5億円で市に買ってもらいました。土地は元々ばらばらの民有地だったんですが、工業団地目的で買収されていた。ただ円高不況の影響で半分が放置されていました。それを市に買い取ってもらいました。

 当初から市民の力、ボランティアによるまちづくりをテーマにしていました。ボランティアにも、お金を出すボランティア、知恵を出すボランティア、汗をかくボランティアの3つがあります。

 お金を出すボランティアは、つまり会員募集。一人1日8円寄付(年間3,000円)をお願し、企業会員や永久会員なども募って1,700人の会員を集めました。知恵を出すボランティアは、大学教授に設計の相談に乗ってもらったりしました。もう一つ大事なのが汗をかくボランティア。実際に第2、第4日曜日に作業をしますが、やることは木を伐ることと道をつくることです。これを昭和60年からずっと続けて、植物園をオープンするまで12年かかりました。自然が相手だし、こちらは素人なので、そんなにうまく進まない。田んぼと土木工事は市が行ってくれましたが、それは全体の20分の1。あとは自分たちの手でつくりました。

  

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雪国植物園に一歩入ると雑木林が広がる。新緑に癒される

 

◯環境をつくれば、自然が戻ってくる

 植物は新潟県以外のものは植えない。標高500m以下にある里山のものに限る。園芸品種は植えない。農薬は使わないというのがルールです。そうするとトンボが40種類、鳥も年間80種類ぐらいくるし、カエル9種類、ホタルもゲンジとヘイケを両方みることができるようになる。環境をつくれば、養殖をせずとも自然が戻ってきます。

 里山というのは生活のための山なので、手の加え方によって山の性質や植生も変わります。隣の山にあって、こちらにないものなどもある。そういうものを集めてきて、今では樹木が200種類、山野草が600種類、シダ類が50種類になっています。

 

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山に入る人の「雪国植物園の4原則」。内容もわかりやすい

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ハナイカダ花筏)。水に浮かべると人が乗っているように見えるそう。

ガイドがないと、植物園の魅力は半分もわからないと思う

 

◯オンリーワンを目指すと全国から人がくるように

 現在は社団法人として市からの指定管理で運営していますが、将来は独立採算で運営するために、受益者負担の工夫をしないといけません。多くの人が喜んで入園料を払ってくれる条件は何かと考えると、心が癒される美しい風景です。生態系が残っているというだけでは、人は来てくれない。新潟県の生態系を守ると同時に美しい風景をつくらないといけません。

 美しさとは何かというと、木をほどよく伐って見通しがいいということが大事になります。見通しがよくないと安心できない。ほっとしない。花を咲かせるためにも木を切らないといけない。我々は光と風をテーマにそれをやり続けることが仕事です。

 苦労もあります。途中で近くに400haの国定公園ができることは予想できなかった。市長に運営できなくなると抗議しにいったこともありますよ。そうしたら「国営公園は国民の余暇のための公園だが、雪国植物園は自然を守るための公園である。植物園は守るからやって欲しい」と言われて、続けることになりました。

 国営公園と競争しては生き残れないので、オンリーワンを目指しています。家族連れは国営公園にいくことが多いですが、こちらにはむしろ、花や鳥が好きな人が多い。専門家なみに詳しい人も来ます。みどりの日に無料開放したら、東京、神奈川、千葉、鹿児島や仙台からも来ました。オンリーワンを目指すと全国からくるようになる。年間15,000人が訪れますが、その半分以上は関東などの県外からです。まだ整備中なのであまり告知はしていませんが、最近は口コミやネットなどの影響で急激に増えています。今年も昨年の25%増しぐらいになっています。

 50歳から里山づくりをはじめて32年になりますが、まだ完成していません。敷地内はほとんど伐り終わりましたが、周辺の個人所有の土地がスギだらけのままです。伐らせてほしいとお願いして回っているので、後3年はかかると思っています。

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クリンソウの群生は植えることで演出している。もう少しすると3~4段の花が咲く。仏塔の先の「九輪」に似ていることから付いた名前だそう。

〇やり始めたからには完遂させるのが経営者

 以上が雪国植物園の大原さんに伺ったお話である。30分程度の短い時間だったが、30年分の重みを感じる話だった。印象的だったのは、ただ里山を自然に回復を任せるのではなく、新潟のシンボルである雪割草が自生する状態をつくるなど、美しい風景を演出するためのポイントを幾つかつくっていることだ。生態系だけでなく、どうすれば人が来る魅力をつくれるかも考えられていた。

 「やり始めたら絶対に完遂させるというのは経営者の感覚ですよ。投資をしておいて、途中でやめたら自分の人生がムダになってしまう」というように、自分の人生をかけて取り組まれている。億を超える個人資産も投資しているそうで、その覚悟と気迫は82歳とはとても思えなかった。今でも毎日山にいて、夕食のときだけ自宅に帰るのだそうだ。言っていることと行動が常に一緒なのだ。

 「言葉で言っても誰もついてきませんよ。いつも山に入り、それをみて、もしかしたらできるかもしれないと思わせないとついてこない。そこまで持っていかないといけない」

 目の前に広がる里山がその結果を静かに物語っていた。まちづくりや地域づくりに関わるものとして、活動に取り組む際の大事な心構えを学ばせてもらう視察だった。

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この風景が30年以上に及ぶ里山づくりの積み重ねを物語っていた